「秘密の花園」(バーネット)①

主役はやはりメアリ、本作品はメアリの成長物語

「秘密の花園」
(バーネット/畔柳和代訳)新潮文庫

甘やかされてそだったメアリは
愛想のない少女だった。
彼女は引き取られた先の
伯父の広い邸宅の中で
いろいろなものと出会っていく。
鳥の言葉が分かる
少年・ディコン、
奥の部屋に匿われていた
少年・コリン、
そして「秘密の花園」…。

児童文学の名作中の名作、
バーネットの「秘密の花園」です。
初読の際には私は、
本作品の良さを十分に
理解できていませんでした。
病弱な子どもから健康な少年へと
変貌したコリンと、
偏屈なその父親との
感動の再会が描かれた
終末の場面に囚われすぎていました。
主役がメアリからコリンへと
交代しているではないかという疑問が
ぬぐえなかったのです。
何度目かの再読で確信しました。
主役はやはりメアリであり、
本作品はメアリの成長物語なのだと。

メアリは心のすさんだ醜い少女として
伯父・クレイヴンの家に
引き取られました。
しかし、いろいろな人や
環境との出会いにより、
彼女の心の氷は
次第に融かされていくのです。

一つは封印された庭園
「秘密の花園」の発見です。
偶然見つけた鍵は、メアリの予想通り
「秘密の花園」の扉を開く鍵でした。
彼女はその鍵で
「秘密の花園」の扉を開くとともに、
自身の心の扉をも開いたかのように
行動します。
誰かから教わったわけでもないのに、
植物がしっかりと
芽生えることができるように
雑草を抜き、
周囲の土を耕していくのです。

一つはメアリ付きの
家政婦・マーサの弟で、
自然と共に生きる術を知っている
少年・ディコンとの出会いです。
「秘密の花園」の再生を
試みようとしているメアリにとって、
ディコンは頼りになる同胞であり、
打ち解けることのできた
初めての同世代の人間だったのです。
メアリは彼との共同作業から、
人や自然と心を通わすことを覚えます。

そして一つは従弟にあたる
同じ10歳の少年コリンとの出会いです。
彼は病弱で
ほとんど寝たきりであったため、
甘やかされて育ち、
王様のように振る舞っていたのです。
それはかつてのメアリの姿でもあり、
メアリはその振る舞いに対して
嫌悪感を覚えるのです。
メアリは彼よりも一段上に立って
彼に教え諭す中で、
さらに自身の心を
浄化していっているのです。

最終章最終節ではコリンとクレイヴンの
数ヶ月ぶりの再会だけに
スポットが当てられ、
メアリがまったく登場しません。
しかしコリンの自立こそが
メアリの完全なる自立であり、
今後メアリがクレイヴン家の一員として
生活していくであろうことを
予感させます。

陰鬱な第1章から始まった本作品は、
ミステリアスな要素や
神秘的な雰囲気を交えながら、
一人の少女の成長物語として、
さらには超一級の文学作品として、
爽やかに幕を閉じます。

※畔柳和代の訳文は、原文の
 ヨークシャー訛りを工夫して
 訳しているのですが、
 やや読みにくく感じます。
 でも、酒井駒子挿画の表紙が
 とても素敵です。

(2020.2.2)

Rudy and Peter SkitteriansによるPixabayからの画像

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